本研究計画が関わる問題領域は、基礎論から具体的各論まで広範に及んでいるが、2010年度において、まず目指されたのは、キリスト教思想と社会科学との関係についての理論的解明の基盤となる、現代キリスト教思想の動向の分析と整理であった(文献収集と分析)。収集された資料の内、とくに、自然神学や科学論、あるいはキリスト教思想における政治論(政治哲学と政治神学)と経済論(特に2010年度においては、聖書における経済の問題とウェーバー・テーゼ)の現状について関わるもの中心として、文献の集中的な分析検討を行い、これらの議論を環境論の問題圏へと接続することを試みた(文献収集から理論構築)。もちろん、広範囲に広がる問題領域全体をカバーするには、一年間の調査では限界がある。しかし、理論構築に必要な研究の基本的な諸動向を確認することによって、次年度からの本格的な研究の見通しを立てることができた。これは、十分な研究成果と言える。 また、本年度は、こうした文献資料に基づく研究のほかに、国内外の研究者との情報交換を進めることによって、とくに東アジアにおける議論の現状の理解に努めた。具体的には、研究代表者が主催する二つの研究会(「近代/ポスト近代とキリスト教」研究会、「アジアと宗教的多元性」研究会)における共同研究と諸学会を通した議論、そしてソウルにおけるフィールド調査である。特に、韓国の研究者の協力によって、韓国キリスト教における、環境、生命、経済、政治などに関わる文献のデータベースを構築することができた。これをどのように活用するかが、次年度以降の課題となる。 なお、以上の研究成果は、上記の二つの研究会の2010年度の研究報告論集として公表され(次頁11)、また本研究プロジェクトのブログ(次頁13)によって随時発信された。
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