研究テーマ「神と人間の一致」に関する平成22年度の宗教哲学領域における課題は、中世ドイツ神秘思想家マイスター・エックハルトの「神と人間の一致」に関する言説に対して為された異端断罪の理由と根拠とを『アヴィニヨン鑑定書』に記されているエックハルト自身の弁明内容と照らして相互の論理枠組みに何らかの相違があるのかないのか、あるとするならばどういった相違なのかをまず検証することから始めることであったが、仔細にテクスト考証を行った結果、エックハルトの特殊な"inquantum"という反復語法の機能を発見することができた。 こうした論理枠組にしたがってエックハルトの「神と人間の一致」の主張は構成されており、異端審問神学者たちの論理枠組とは全く異なり、理解さえされていないことが異端審問調書記述の質問事項とその答え、さらにその評価の内容から明らかになった。この成果は、学会発表、および複数の論文として世に問うことができた。 さらに同じドミニコ会の先人神学者フライベルクのディートリヒの二つの主著『至福直観について』と『知性認識と知性認識されるもの』から彼の知性論の主導原理である「本質的原因論」(causa-essentialis-Theorie)を構造的に解明するという目標も、エックハルト思想の根本的主導論理「本質的始原論」(principium-essentiale-Theorie)によって継承・受容・変換される過程のなかでかなり明確にすることができたと思われる。 研究テーマ「神と人間の一致」に関する平成22年度の図像学領域における研究課題は、「神秘の葡萄搾り機図像」を中心に、現地調査、映像資料収集(申請者自身による写真撮影)を進めることであるが、これも夏期の調査研究で十分に成果を上げることができた。
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