本研究は、栄西の著作を中心とする文献資料に基づき、栄西の思想形成とその後代への影響を明らかにすることを目的に行った。 まず、実施計画の「(1)栄西の思想形成に関する研究」について述べる。1.『禅籍叢刊 第1巻 栄西集』の刊行は、予定した2012年12月よりやや遅れたが、年度内に完成させることができた。刊行が遅れた理由は、作業に手間取っただけでなく、入稿後にさらなる断簡(栄西の著作の一部)が発見されることがあり、また、内容をより充実させるべく所収資料に追加を行ったためである。本書の中では著作の翻刻と解題を担当したが、先に刊行された『真福寺叢刊 中世先徳著作集』所載の栄西の著作と合わせて、根本資料がほぼ出揃ったことになる。栄西の研究のみならず日本の初期禅宗の系譜を見直す際の重要かつ基礎資料になるといえ、仏教史研究に寄与する点は少なくないと考える。また、大須観音真福寺における聖教調査の集大成として、2012年12月に名古屋市博物館で展観が催された。シンポジウムのパネラーと図録の項目の執筆を担当し、本研究の成果を一般へ公開することもできた。2.栄西門流について、3.栄西像の形成について、4.栄西の伝記の見直しは、栄西の弟子たちの動向と関わらせて調査・研究を行った。特には愛知県春日井市の密蔵院が所蔵する栄西関連典籍の分析を行った。栄西の門流は、当該期の密教と禅との関わりを示す中核となることから、その形成過程を明らかにすることは重要である。5.五臓論に関する資料として、栄西の『秘宗隠語集』(大東急記念文庫蔵)の調査・研究を進めている。 次に、実施計画「(2)日本初期禅宗における密教と禅との関係」については、1.真福寺蔵『禅家説(初期禅宗法語)』の調査を継続して、刊行に向けて研究を行っている。2.『千代能物語』も調査を続行しており、1と併せて、中世の女性への法語の在り方を検討している。
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