本研究では、これまで、栄西の新出の著作を中心に、栄西の思想形成と、その後世への継承について考察してきた。本年度の研究実績の概要を、実施計画に即して述べていく。 (1)栄西の思想形成とその継承にかかわる研究 1.平成25年3月に刊行した中世禅籍叢刊第1巻『栄西集』(臨川書店)に収録した栄西の新出の著作から、その主著ともいえる『改偏教主決』の内容の検討を始めた。本書は、これまで存在さえ知られていなかったものであり、内容の把握には基礎作業から必要であったため、本書の調査チームであったメンバーで再度研究会を組織し、『栄西集』に掲載した翻刻を基に、読解と注釈に取りかかり、現在も継続している。2.大東急記念文庫蔵『秘宗隠語集』に関しては、分析と他文献との比較を続けている。その成果の一部は、平成26年8月に発表する予定である。ただし、翻刻等の公表は、影印(大東急記念文庫善本叢刊)が刊行されてからとなる。3.栄西の後継者に関する考察においては、①愛知県春日井市の密蔵院所蔵文書の調査を予定していたが、愛知県史の調査と重なったことから、延期した。②真福寺所蔵の安養寺流聖教の調査は、7月・12月・2月に行った。現在も継続中である。③無住『聖財集』の研究は、天理大学附属天理図書館所蔵の一本を翻刻し、解題を付して、中世禅籍叢刊第4巻『無住集』(平成26年9月予定)に掲載して、刊行する予定である。既に脱稿し、現在は校正を行っている。 (2)本研究の統括 これまでの研究を整理して、論文化することを計画した。これまで長期にわたり続けてきた栄西の著作の調査研究は、『栄西集』の刊行によって、一段落を付けることができたといえ、その整理に基づいて、次の段階である内容の検討に着手し得た。各論については、考察を続けているが、それらの公表は、他の研究機関との調整もあり、まだ完成をみていない。
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