本研究の目的は、比較思想史の観点から、人類の普遍的課題である共生の問題を先駆的に提起しながらも、これまで近代思想史上であまり光の当てられていなかったいわば思想の地下水脈の一路(E.カーペンター、石川三四郎)に焦点を当てて掘り起こす試みである。両者の共通の問題意識は、社会総体とその中での自己を、自然を射程に組み込むことにより、解決の糸口を探ろうとするものである。 平成22年度では、共生思想の先駆的系譜に位置づけられるエドワード・カーペンターの内発的発展論の思想的基盤を、とくにイギリスのミルソープにおける共同体再編の試みから検討することを目的として論稿をまとめ、『聖学院大学論叢』第23巻2号に掲載した。 この論文では、研究計画であげたカーペンターの第一次資料をイギリスのケンブリッジおよびカーペンター文庫で収集し、論文の基盤として活用した。カーペンターは、20世紀初頭のイギリスで社会的調和論の実践をめざした組織であるFellowship of the New Lifeの中心的存在としてその活動を担いなから、彼独自の"new Life"の展望を求め普遍的価値と関わる主体形成および社会倫理の問題を模索していった。 近代化が推進されるにつれて、肥大化した社会関係の中では、個的な存在は社会システムの規制状況に封じ込まれ、人間の現実的存在感は希薄となっていくこととなる。カーペンターは、イギリス資本主義の「構造転換」に連動して、この希薄化をめぐる危機的状況を強く意識することとなった。このことが、共生思想の先駆的な問題意識の基底となったのであり平成22年度は、彼の思想形成過程を第一次資料から検討することを主眼として、その結果を英文の論文にまとめ、次年度での研究での第一段階とした。
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