本研究の最終年度である24年度は以下の3種の研究活動を行った。 ①前年度までの研究成果を統合したものから得られるギリシア教父における「慰めの手紙」の構造や性格と、アウグスティヌスの書簡や説教から見出される「慰めの手紙」の構造や性格を比較考察し、両者の異同を問い、それぞれの固有性をできる限り明確に提示することを試みた。こうした研究の過程で、キリスト教における救済論的思想とギリシア哲学がきわめて大きな影響史的関係にあること(たとえば両思想圏でのオイコノミア概念の相関変遷史)が見出され、今後の大きな研究指針を得ることができた。国内での先行研究がほとんどない状況での個人研究は困難をきわめたが、今後の研究進展のための礎石が築けた点で大きな意義があったものと思われる。 ②東方と西方、つまりギリシア語圏とラテン語圏で「情念」(パトス)に対する身の処し方、対峙の仕方は異なるのか、近似しているのか、パトスやアパテイアに対する理解ではどうなのか、以上の問題をギリシア的思想伝統からの影響関係と相関的に、可能な限りの総合的な理解を得られるよう試みた。感情論の見直しが国内外で進みつつあるが、教父学という独自の視点からこの研究領域に少なからぬ貢献ができたものと思われる。 ③以上の研究に基づき、24年7月に韓国ソウルで開催されたアジア・太平洋初期キリスト教学会および8月に英国オクスフォードで開催された日英古典学シンポジウムにおいて、本研究に関連する研究発表を行い、その成果を広く各国の当該研究者に提供することができた。
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