本研究課題は追加採択であったため、当該年度における研究計画は、日中の研究者がそれぞれ中国における梁漱溟と日本における江渡狄嶺の農業擁護思想の資料調査および研究分析を行うことに重点をおいた。そこで日本側の実施した研究成果を列挙する。(1)代表者と分担者が狄嶺の錯綜したテクストをそれぞれ解読するとともに、2011年2月に愛知大学教授の岩崎正弥氏を招請して、「農の思想と地域協同・共生」の研究会を行った。自治・農業・自然と作為の関係を切り口に「近代日本の『農業擁護思想』史上における江渡狄嶺」農思想の意義をとらえ返すこととなった。(2)代表者は名古屋哲学研究会日本思想史部会において、特に協同と共生の視点から狄嶺の「自然」や「家稷」などの基礎語を解読し、現代社会にとっての狄嶺の農業擁護思想の可能性を探ろうとする口頭発表を行った。この口頭発表の原稿は、平成24年度を目途に書き下ろして同研究会の研究誌に掲載することが予定されている。(3)分担者は狄嶺会例会の講師を務め、代表者も都合のつく限り出席し、狄嶺の未刊行原稿「場の講義」の解読を同会のメンバーとともに行ってきた(代表者の東日本大震災による繰越分の出張費はこれの一回に当てられたものである)。これに関する共同研究成果の刊行を分担者中心に早い段階で実現させていく予定となっている。(4)代表者は研究協力者である山東大学教授の牛建科氏を通じて梁漱溟の農業擁護思想に関する資料調査を行ってきた。分担者は江渡狄嶺と梁漱溟の農の哲学思想の比較分析につとめた。(5)代表者は前述した牛建科氏の協力を通じて、中国の梁漱溟研究者である李善峰氏(山東省社会科学院教授)との研究交流・対話を深めた。次年度の研究計画は、こうした交流活動を基に、中国における農思想の実地調査研究及び日中共同研究会の開催を柱に実施していくこととする。
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