研究課題/領域番号 |
22520084
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐々 充昭 立命館大学, 文学部, 教授 (50411137)
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キーワード | 東アジア / 民族 / 民族主義 / ナショナリズム / 帝国主義 |
研究概要 |
本年度は、「民族」概念に伴って発生した東アジア三国の「民族主義」言説について比較考察した。日本では、1887年に加藤弘之によってドイツ語「nationalitat」の翻訳として「族民主義」なる語が考案された後、英語「nationality/nationalism」の訳語として「国民主義」「民族主義」の語彙が定着した。また、日本では、「民族主義/国民主義」の延長線上で「帝国主義」が肯定的に論じられたのが大きな特徴である。一例をあげると、米国の政治学者ラインシュの『帝国主義論』が日本語に翻訳され、「民族帝国主義」の理論が提唱された。また、浮田和民は「侵略的帝国主義」と「倫理的帝国主義」を分け、後者を人類の福祉を増進させるものと見なした。 一方、中国でも「民族主義」の和製漢語が伝播した。当時の中国の知識人たちは、立憲派と革命派に分かれていた。立憲派に属した梁啓超は、世界の現状を「民族主義」と「帝国主義」の拮抗状態と把握しながらも、後発国である中国はまず「民族主義」を確立しなければならないとし、中国領内の全種族が一致団結する「大中華民族主義」を訴えた。一方、革命派と留日留学生らの多くは、「排満興漢」による共和革命を訴え、満族と漢族の人種的差異を強調し、漢族中心の「種族的民族主義」を宣揚した。 朝鮮の場合には、1905年から勃興した愛国啓蒙運動において、日本や中国の政治学術書の翻訳を通じて「民族主義」の理論が本格的に論じられるようになった。1910年の韓国併合以後は、帝国日本が掲げた「帝国主義」的な「民族主義」に対抗するために、国籍(nationality)ではなく種族性(ethnicity)に力点をおいた政治原理として「民族主義」が重要視された。以上、本年度の研究では、東アジア三国における「民族主義」概念の伝播/連鎖過程において、各国の知識人エリートが担った政治状況の違いが、「民族主義」と「帝国主義」との関係性、および「民族主義」と「種族主義」との関係性の把握において、大きな解釈的差異をもたらした事実について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年9月から2012年3月まで、中国人民大学哲学院に訪問研究者として所属しながら在外研究を行った。この期間中、人民大学、北京大学、中国国家図書館、各種書店において、中国の民族主義/ナショナリズムに関連する資料収集を効果的に行うことができた。また、人民大学の哲学院や孔子研究所に所属する研究者たちと学術交流を行う機会を持ち、儒教を中心とする現代中国の「国学」運動の状況について調査することができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である平成24年度は、当初予定していた通り、東アジア三国で展開された「国粋主義」言説の比較研究を行う。東アジア三国で提唱された「国粋主義」言説は、歴史上最古の神話的人物を「民族の血族的先祖」と見なすなどの共通点を有する一方で、その思想的伝播/連鎖過程において各国の政治状況を反映した独自の言説編成が行われた。日本の国粋主義に関しては、主に「大和魂/日本魂」に関して、日本語資料の分析を行う。中国の国粋主義に関しては、「孔子尊崇意識」と「黄帝魂」言説の二つに分けて考察を行う。孔子が誕生した聖地である山東省曲阜の孔子廟府や黄帝誕生伝説が伝えられる中国各地の調査も合わせて行う。朝鮮の国粋主義に関しては、「檀君子孫」意識についての考察を行う。韓国において資料収集を行い、その内容を分析・整理する作業を行うが、考察対象は韓国だけではなく、北朝鮮の檀君関連史跡(檀君陵など)も射程に入れる。以上「国粋主義」に関する考察結果のほか、過年度において行った「民族/民族主義」「国家思想」に関する研究成果を総合して、東アジア三国における「民族」概念および「民族主義」言説の創成過程に関する特色について明らかにする。
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