平成24年度は、日本・韓国・中国の各種図書館において関連史料の収集を行いながら、東アジア三国における「国粋主義」言説の創出過程について比較・考察した。 日本では、明治20年頃から政教社の雑誌『日本人』や新聞『日本』を中心に「国粋主義」運動が展開され、「武士道」精神による「日本魂(大和魂)」が唱導された。1897年には大日本協会が設立され、日本民族は天照大御神の子孫である天皇を中心に統合された一大家族国家であるとする「日本主義」運動が推進された。中国では、梁啓超が「日本魂」に触発されて「中国魂」の発揚を訴え、中華民族はすべて「黄帝の子孫」であると主張した。革命派や留日留学生たちも、各種留学生雑誌を通じて「国粋主義」を盛んに論じた。特に留日留学生たちは「排満興漢」を訴え、黄帝を満州族ではなく漢民族の先祖であるとして「黄帝の子孫」意識を強調し「黄帝魂」を唱導した。さらに、朝鮮では『大韓毎日申報』の主筆であった申采浩が、同紙に論説「国粋保存旨義」を掲載し、国粋主義を大々的に宣揚した他、1905年以降の愛国啓蒙運動を通じて「朝鮮魂」や「大韓精神」の発揚が訴えられた。朝鮮ではまた、古朝鮮を開国した檀君を朝鮮民族の始祖とする「檀君の子孫」意識をもとに「檀君ナショナリズム」運動が展開された。 本研究では、東アジア三国の「国粋主義」運動が、日本から中国・朝鮮へ伝播したものであり、①尚武精神を重視する「民族魂」の発揚、②歴史上最古の神話的人物を「民族の血族的先祖」と見なす点、などの共通性が見られる一方で、その連鎖過程において各国の政治状況を反映した独自の言説編成が行われ、相互に競合的な文化運動として展開された点を明らかにした。
|