研究課題/領域番号 |
22520089
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
足達 薫 弘前大学, 人文学部, 教授 (60312518)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 記憶術 / ルネサンス / イタリア / 美術史 / 愛の狩り |
研究概要 |
本研究の目的は、イタリア・ルネサンスの記憶術師・文学者ジュリオ・カミッロが残した様々な文学的テクストを実証的に検証し、同時代の美術におけるマニエリスムとの間に存在する類縁性や直接・間接の影響関係を明らかにすることである。平成25年度にはカミッロが残したテクスト『模倣論』『雄弁のイデア』の2つの内容について考察すると共に、イタリアのローマで資料調査をおこない、それらのテクストが収められた16世紀の様々な印刷本を閲覧し異同を確認することにつとめた。 この調査の途上、14世紀から16世紀にかけてイタリアで確立した「愛の狩り」の文学的伝統の重要性(同時代の記憶術および寓意的イメージとの相互影響)を発見し、それらの例について考察を行った。この文学的伝統では、恋する者(男性)が恋の対象(女性)を探して彷徨う「愛の狩人」となり、噴水(しばしば鏡としての機能も有し、愛の狩人に死と再生という二者択一的な運命を与える重要なモティーフであり、頻繁に描出される)や寓意的人物像(多様な色彩、アトリビュートを与えられ、愛の狩人を混乱させたり、導いたりする)と出会うというシナリオが繰り返し歌われた。この基本的シナリオに含まれた多くの手順とモティーフ(一枚の寓意的風景として完結する場面の連鎖ないし飛躍的接続によって構成され、読者=体験者は多様なイメージと戯れつつ、愛の狩りというシナリオを追体験する)は、本質的に記憶術と一致していると考えられる。 この「愛の狩り」と同時代のイメージとのかかわりについては、今年度ありな書房より出版が予定される論集『変身(仮題)』の中の一章として発表されるので参照されたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、(1)カミッロの美術論の全体像と(2)その細部についてかなり明確となってきた。加えて、これまでの研究で得られた視点は、25年度に浮上してきた「愛の狩り」をキーワードとする同時代美術との具体的な比較検討という課題にも応用して発展させることができることが確信される。26年度には、さらに具体的ないくつかの同時代的イメージ(特にいわゆるマニエリスムの室内装飾)とカミッロの美術論を比較検討し、これまでの研究を総合しながら、新たな創造的解釈を美術史にもたらすことができると考えられる。この目標に向かってさらに身を引き締めて前進していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
26年度には、さらに具体的ないくつかの同時代的イメージ(特にいわゆるマニエリスムの室内装飾)とカミッロの美術論を比較検討し、これまでの研究を総合しながら、新たな創造的解釈を美術史にもたらすことができると考えられる。この目標に向かってさらに身を引き締めて前進していきたい。 また、これまでの研究の締めくくりとして、カミッロの「記憶の劇場」の3D的再構成にも挑戦したい。
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