本年度は、研究代表者の体調不良のため海外資料調査を行わず、国内で入手とアクセスの可能な資料の分析、およびこれまでの研究の総合に精力を注いだ。特にジュリオ・カミッロ『劇場のイデア』で語られた「記憶の劇場」の再構成を進めることを最大の目的とした。具体的には、以下の三つの要素をリンクさせる「ヴァーチュアル版記憶の劇場」をPCを通じて作成することが可能であった。 A カミッロが述べる49のイメージ、B 同時代および後世の絵画や彫刻や版画、ヒエログリフ、エンブレム、インプレーサ、C カバラ、錬金術のテクスト この研究によって、イタリア・ルネサンス美術におけるマニエリスム様式の形成には、伝統的なキリスト教的図像学、古代ギリシア・ローマについての探求ばかりでなく、秘儀的な性格の強いBおよびCがきわめて強い影響を与えたことがほぼ明らかとなった。 本研究における主に文献精読による研究は、平成27年度~30年度の新たな基盤研究(C)「マニエリスム形成期における記憶術の影響についての研究」へと発展した。こちらの研究では、フィールドワークによるイメージそのものの観察と記述を行う。このように、本研究は、新たな研究課題の基盤ともなり、きわめて実りの多いものであった。
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