本課題研究の最終年にあたる24年度は、これまでに継続してきた研究の成果をまとめるべく著書の執筆に注力し、原稿を完成させた。(著書は25年9月に慶應義塾大学出版会より出版予定。)本書の構成は<序章 モダニズムは反ファシズムか?、第一章 ホフマンスタールと保守革命~形姿(ゲシュタルト)をめぐって~、第二章 ゴットフリート・ベンとナチズム、第三章 T.E.ヒュームの芸術論と原(プロト)ファシズム、第四章 エズラ・パウンドとイタリア・ファシズム 結び >となっており、これまで申請者が本科研申請の計画に従って進めてきた研究内容全体をまとめたものである。本著書は、これまで解明が不十分であったファシズムとモダニズムの美学の相互浸透について明らかにするために美学と政治を領域横断的に分析し、両者の関係について根本的な観点から論じた点に新規性があると考える。 また、本年度は「政治と美学の相互浸透」という本研究テーマを、今後アクチュアルな問題としてさらに発展させていくために、主に現代アートに焦点を当てて取材と考察を行った。本年取材のために訪れたカッセルの<ドクメンタ13>では新しいアートの動向を取材し、今日においてアートと政治がどのような関係にあるのかを調査し、アートそれ自体および両者の関係の変化について考察した。今後はこれまで研究を行ってきたファシズムとモダニズムにおける美学と政治の相互浸透との比較検討を通して、変容しつつある芸術と政治の関係について考察を行っていきたいと考えている。
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