ジョルジュ・サールの生涯を詳細に辿りながら、世界美術史における日本の再評価にサールが果たした役割を裏付ける資料の現状をより広く把握することができた。 日本美術の作品やコレクション、またヨーロッパと日本におけるアジア美術史の発展に関する近年の出版物を入手することで、フランスにおける日本美術コレクション史の中でサールがとった行動を明確にすることができた。 フランスでの研究滞在では、いくつかの研究施設や美術館(国立美術館附属図書館、ギメ美術館附属図書館)に属する学芸員や研究員の協力を得て、ジョルジュ・サール自身に関するものだけでなく、最初の極東美術コレクションについて、ルーヴル美術館での展示からギメ美術館への移管に至る歴史に関する多くの情報や資料を、引き続き入手することができた。また、フランスにおけるアジア美術コレクションの展示の歴史に関する論文の寄稿(「チャンディーガルからパリへ フランスの美術館におけるアジア美術受容の変遷への一考察」)、そして一昨年お茶の水女子大学において企画・コーディネートを担当したファン・ゴッホと日本に関するシンポジウム(第14回国際日本学シンポジウム 2011年7月10日)の議事録の出版により、日仏芸術交流、とりわけアジア美術と現代美術の分野における世界的ミュゼオロジーの進展にサールが果たした重要な役割を浮き彫りにすることができた。 そして昨年、本研究のテーマの一環として、お茶の水女子大学比較日本学教育研究センターの主催で第15回国際日本学シンポジウム(2012年7月8日)「能になった西洋の詩・戯曲」を開催し、西洋における日本文化の受容にみられるサールの思想と功績について、過去と現在の視点から考察することができた。19世紀末から20世紀全体を通して多様に解釈されてきた能は、本研究にとってもとりわけ重要な指標となった。
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