ヨーロッパ中世の神秘主義思想における幻視(ヴィジョン-神からの啓示)の視覚化の考察を中心として、可視なるものと不可視なるものとを比較しつつ、それらの表象の特徴を検討した。とくにドイツのヒルデガルト・フォン・ビンゲンのヴィジョンの図像考察をもとに、中世の写本挿絵や彫刻(祈念像など)の作品も取り上げ、異界と現世をつなぐ媒体、メディアとしてのヴィジョン・イメージの特質を解明した。その結果、幻視を通して、さまざまな異次元世界への移動が可能となること、その表象の仕方には、図像学的にみて多様な工夫がなされていることなどが明らかとなった。さらにヒルデガルト以外の幻視者、神秘主義者のヴィジョンやその視覚化もみることによって、より具体的な図像タイプの考察が深まった。なかでも特徴的な図像タイプに分類できることが判明し、その特質を作品例に基づいて検討した。幻視者の個人的体験が中心なのか、幻視の内容が中心なのか、またそれを確認する第三者の存在があるのか否か、といった点から、異界との交流が多様に解釈できる。このような考察は、不可視なるものの視覚化という現象が、宗教的にどのようにとらえうるのかという理論を今後深めるために有意義なものとなるであろう。また、さらに宗教における視覚イメージの意義や機能を探究し、宗教美術研究への展望を見通せるようになった。
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