研究期間の最終年度として、研究の総括を行った。まず、本研究のキーワードであるイメージという語そのものが多義的であるが、実際の「もの」としての視覚イメージ(美術作品)および神や異界、不可視なものの似姿・像としてのイメージという多面的な要素を考慮し、さらに観者に訴えかける力(聖性のエネルギー)を有するイメージという特質に着目して考察をすすめた。 そして、イメージが中世の霊性(スピリチュアリティ)のなかで果たす機能および宗教と美術(イメージ)との関連性を解明し、宗教美術の特徴を明確化することができた。とくにイメージが用いられる場をパフォーマンス理論や受容美学理論とあわせて検討した。メディアとしてのイメージが及ぼす効果についても考察した結果、イメージを受け取る側の特徴を明らかにすることにより、人びとの霊性へダイナミックに働きかけるイメージの力が、浮き彫りになった。 長期休暇に、ヨーロッパの図書館において中世美術の文献収集を行った。とくにヒルデガルト・フォン・ビンゲンや、フィオーレのヨアキムなどの資料を調査した。またハインリヒ・ゾイゼなどの神秘家のヴィジョンのテクストおよびそれらの図像を総合して考察した。それにより、中世ヨーロッパの霊性における視覚イメージの意義を解明し、「霊性(スピリチュアリティ)の図像学」が宗教美術研究アプローチのひとつの切り口として有益である可能性が明らかとなった。さらにヒエロファニーとしての宗教美術という特質に注目し、具体的に中世霊性の中で見出される異界とのコミュニケーションの手段としての機能などの特徴を明確化した。 宗教学会や宗教史研究会などで発表、討論をし、研究者との意見交換を行った。さらにこの研究に基づいた論文を執筆し公表した。
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