矢代幸雄以来、日本美術は写実的であるよりも装飾的であると規定されてきた。本研究では、似絵を中心とした鎌倉時代の肖像画研究、および江戸時代中期の写実派である円山応挙、伊藤若冲の作品研究を二つの軸として、日本美術の写実性の観点から美術史を再構成することを試みた。 似絵研究では、鎌倉時代における展開を、似絵の形式と内容面から初期・中期・後期の三期に時期区分し、初めて似絵研究に体系的な軸を構築した。円山応挙および伊藤若冲に関しては金刀比羅宮所蔵の障壁画群を主たるテーマとし、特に応挙の障壁画において、写実が単なる二次元上での再現だけでなく、現実空間への現前までを意識した魔術性を持つことを論じた。
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