今年度は以下の観点から研究を行った。 ・世紀転換期の写真と身体の間メディア論的考察 19世紀後半から欧米で浸透した名刺版写真が帯びる、記号論的意味を明らかにし、さらにその生産、流通、受容がもたらす身体的同一性の変容について議論を行った。写真の1ジャンルであったカルト・ド・ヴィジットが、その道具立てから撮影方法、交換や流通のあり方やアルバムへの編纂に至るまで、表層的記号の断片を用いて市民たちに自己の輪郭を与えるとともにそれを再編集可能で流動的な記号の集積体ともしていたメディアであったことを明らかにした。従来の写真史および写真論の言説の中でもこのような素材をめぐって記号論的、間メディア論的な考察が単独でされたことはなかった。またこの議論は現在の映像文化にも間接的につながる論点を提起している点で、学術的にも意義のある考察と思われる。(「カルト・ド・ヴィジット論――ヴァナキュラー写真の可能性」(『美学芸術学論集』第9号、2013年3月)) ・1980年代以降の写真と映画とビデオの交錯についての考古学的考察 以下のシンポジウムにおいて、80年代以降のタイムマシン映画史における、映画/ビデオ/写真が交錯した時間意識の問題を写真論の立場から考察を行い、報告を行った。しばしばSF映画において単線的で因果的な道具立てとして使用される写真が、80年代以降の映像文化の変容の一つの要因であるヴィデオ的媒体、ヴィデオロジー的展開を通じて、いかに20世紀末の変容した映画(SF映画)のなかの重要なモメントとなっているかを明らかにした。(「写真とタイムマシン」美学会全国大会当番校企画 シンポジウム2 「タイムマシンの美学」20131008(於 京都大学)での報告)
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