研究概要 |
西洋絵画はしばしば「開かれた窓」に例えられてきたが,窓の向こうの表象の世界と我々の世界との,窓枠-額縁=フレームを間に挟んでの関係は,19世紀後半に大きく変わった.本研究計画の目的は,その変化の現れを画面の縁という「場」に見いだし,新印象派の画家ジョルジュ・スーラの作品の表象を取り巻く点描の帯-「ボーダー」と点描を施したオリジナルの額縁=「フレーム」との関係を契機として考察することである.この目的達成のために,(1)実際の作品および「ボーダー」と「フレーム」を調査すること,(2)当時の文献資料および現在の研究における「フレーム」と「ボーダー」への言及の調査の二つを大きな柱として研究を進めた. (1)に関連しては,図版であまり取り上げられないスーラ作品の細部,とくに画面の端を実際に調査するため,平成24年3月にアメリカ合衆国に調査旅行を実施し,シカゴ美術館,ワシントン・ナショナル・ギャラリー,フィラデルフィア美術館,メトロポリタン美術館,ニューヨーク近代美術館などに所蔵されているスーラおよび19世紀後半のフランス画家の作品とオリジナル「フレーム」の調査を行った.とくに,「ボーダー」と「フレーム」があるスーラ作品については,細部拡大写真を可能な限り撮影した. (2)に関連しては,平成22年度に主要な一次資料はほぼ集めたが,近年の研究や所蔵美術館による科学調査報告の蒐集を引き続き行い,文献解読に努めた. 成果の発表としては,平成22年度の調査旅行の結果を受けて,まだ萌芽的考察であるが『視覚の現場』に「『絵の端』を巡る考察」を発表した.また,スーラに関連する検討として『フォーラム21』に「岡鹿之助とジョルジュ・スーラ」を執筆した.これらの検討を土台として,研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スーラの「フレーム」と「ボーダー」の調査については,アメリカのバーンズ財団美術館の改修工事により予定した作品を見ることができなかったが,それ以外は当初計画していた作品調査を平成22年度,23年度にほぼ終了した.文献資料の収集については,読み進むにつれさらに収集対象が増える状況であるが,解読は順調に進んでいる.次の段階として,順調に考察に進んでいる.
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