西洋絵画はしばしば「開かれた窓」に例えられてきたが,窓の向こうの表象の世界と我々の世界との,窓枠=額縁=フレームを間に挟んでの関係は,19世紀後半に大きく変わった.本研究の目的は,その変化の現れを画面の縁という「場」に見いだし,新印象派の画家ジョルジュ・スーラの作品の表象を取り巻く点描で描かれた帯=「ボーダー」と点描を施したオリジナルの額縁=「フレーム」との関係を契機として考察することである. この目的を達成するために,①スーラ作品の「フレーム」と「ボーダー」の実地調査および作品の科学調査報告の検討,②「フレーム」と「ボーダー」に関するスーラや彼と同時代の評論家などの文献における言及,および現代の学術研究における言及を検討し,両者の出現の経緯と関連性,およびその変遷を明らかにし,以下のような結論を得た. スーラの「ボーダー」は,窓のような「現実の開口部」を示唆しておらず,抽象的な帯に見える.だが,表象を取り囲んでいるという意味ではその内側の表象にとり一種の「フレーム」であり,「フレーム」に施された点描と同質の点から構成されているという意味ではその外側を取り囲む「フレーム」の自己反復とも解釈できる.本研究では,この「ボーダー」の二重性が徐々に形成されていった過程を解明し,スーラの絵画を「窓としての絵画」が揺れ動き平面化が進行する19世紀後半の変動の流れの中に「絵の端」という観点から取り込んだ.この観点の導入により,ドガやカイユボットの「新しい絵画」に従来とは異なる角度からスーラの芸術をつなぐ可能性を示し,この画家をモダニズム絵画の歴史の中に新たに位置づけることができた.
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