研究概要 |
23年度は、コンピューターが壊れて補填する必要が生じたため、海外調査をあきらめて国内調査を計画した。しかし幸いなことに年度中盤になって、私が連携研究者となっている科研(基盤研究Bシノワズリの中の日本)とうまく調査連携できることになり、あきらめていた欧州調査が実現した。スェーデンの博物館(National Museum,Arme Museum,Uppsala Domkyrkan,Ethnografiska,Ostasiatiska,Historiska)において、花鳥獣刺繍を初めとする中国製の輸出用染織品を調査した。また、国内では、大津祭の龍門滝山、源氏山、殺生石山(以上大津)と輪王寺(日光)において花鳥獣刺繍を調査した。 23年度は、以下の3点の学会発表と論文執筆を行った。第1は、民族芸術学会「黒川古文化研究所の花鳥獣刺繍布が語りかけること」である。黒川古文化研究所の作品は、異例な作例で、基準作である西教寺の作例より遅い時代の作であることを指摘した。黒川と西教寺の作例を用いてリスボンの作例を考察し、リスボン作品は定説の中国製ではなく、欧州製である可能性を指摘した。 第二は、京都市立芸術大学研究紀要「中国における合糸・撚糸装置の展開」である。黒川の作品には、異例の糸が用いられていることが判明した。この糸の位置づけを考察するために、中国の研究書を中心に、合撚糸装置の変遷を整理した。 第三は、人文学報「日本に舶載された欧州輸出用の中国製染織品」である。日本に伝存する刺繍ビロードの6作例に関して、それらの意匠と技法の特質を指摘した。そのうちの1作品は花鳥刺繍の打敷で、一見中国の霊鳥に見えるが、モデルになったのはヨーロッパの"Pelican in her piety"というキリスト教の主題である。 なお、海外調査が実現したため欧州調査を優先し、メトロポリタン美術館の作品に関する論文執筆は、来年度に回すことにした。
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