平成22年度は、予備調査及び本調査を中心に行った。本調査を行った作例は、次のような観点で選定した:(1)鎌倉地方に残される鎌倉時代の武家肖像、(2)左記の作例と同時代の作で、作風・作者等が通じるなど、考察の上で参考となる高僧肖像及び仏像彫刻、(3)徳川家康像を始めとする江戸時代の典型作例、(4)武家肖像彫刻の種々相を示す作例、(5)考察の参考となる絵画作例 本調査を行った作例は次の通りである:鎌倉・建長寺木造北条時頼坐像、鎌倉・明月院塑造北条時頼坐像、同寺木造上杉重房坐像、鎌倉・浄光明寺木造北条長時坐像、同寺木造眞阿坐像、同寺木造地蔵菩薩立像、神奈川県立歴史博物館絹本着色北条時頼像、東京・大倉集古館随身庭騎絵巻、東京・木造太田道灌坐像、愛知・常楽寺木造阿弥陀如来立像、愛知・華蔵寺吉良義央坐像、愛知・大樹寺徳川家康坐像 これらの作例についての主な成果は次のとおりである。(1)鎌倉時代の武家肖像彫刻の形式は、法体と俗体に大別され、後者は束帯ではなく狩衣姿が中心であり、(2)いずれの形式においても、鎌倉では北条時頼像が古例とみられること、(3)とりわけ、明月院の塑造北条時頼坐像は表現の上でも特異な特徴を示し、注目される作例であること、(4)従って、上記二像以外にも残る北条時頼像の考察が研究上重要な位置を占めるとみられること、(5)江戸時代の作例は束帯像が主流を占め、中でも七条仏師の作とみられる徳川家康像が重要な位置を占めるとみられること 今後は、上記以外の北条時頼像、源頼朝像、足利尊氏像など、各時代の典型と種々相を探ってゆくうえで有効な作例を中心に調査を進めたい。
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