本研究は、明治から大正期にかけて活躍した女性画家、野口小蘋(1847-1917)の作品と伝記に関する総合的かつ網羅的な研究を行うとともに、彼女の当時の画壇における史的位置付けの考察を目的としている。本年度は、まず、小蘋の作品、伝記、活動に関するあらゆるデータを収集し、整理・分類し、研究の基礎となる網羅的なデータベースの作成、及び詳細な年表の作成に集中した。作品調査を始めると、これまで紹介された作品以外に、個人蔵を含め、予想以上に多くの小蘋作品が現存することが確認できた。そのため、未だ、全ての作品のデータを網羅できておらず、完成には至っていないが、来年度も引き続き作品データの収集・整理につとめて完成を目指す。完成の暁には、今後の小蘋研究における最も基礎的な資料になると確信している。本年度のデータ収集では、作品の伝来や注文主に関する資料(作品の印章・画中文字[賛、落款]・付属資料[箱書、添え状等])、小蘋自身や作品に関する様々な文献資料(美術雑誌、新聞、書籍[伝記集、交流のあった人物の手紙、日記、茶会記など])も収集するように努めた。今後これらを分析することにより、小蘋の画家としての社会的な立場、具体的な活動状況、活動地域(京都・大坂、東京、各遊歴先)、交友関係、少蘋画の受容者の社会階層、活動期の歴史的状況の変化などを明らかにし、これらの様々な要因と、小蘋作品の画題、描写技法、画面形式、画風展開などとの影響関係を検証し、幕末から明治・大正という政治・社会・経済・文化の様相が刻々と変化し続けた時代の中で、小蘋画のような南画(文人画)が担った社会的な機能や歴史的な役割について考察するつもりである。本研究は、このように、当時の社会的・文化的・地域的状況などから、多角的、具体的に小蘋の画業を考察しようとするものであり、作品論と作家研究を中心に行われたこれまでの小薮研究とは異なる特色があると考えている。
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