研究課題/領域番号 |
22520105
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
山盛 弥生 実践女子大学, 香雪記念資料館, 研究員 (90433763)
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キーワード | 野口小蘋 / 女性画家 / 南画 / 文人画 / 玉山 / 日根対山 / 煎茶 / 帝室技芸員 |
研究概要 |
本研究は、明治から大正期にかけて活躍した女性画家野口小蘋の作品と伝記に関する総合的かつ網羅的な研究を行うと共に、彼女の当時の画壇における史的位置付けの考察を目的とする。 小蘋研究の中で、作品の伝来や注文主について、また、小蘋の作品に関する様々な言説についての研究はこれまでほとんどなされてきていない。これらを検証することにより、少蘋画の受容者の社会階層、注文の目的、作品の用途と社会的機能、画家の社会階層と活動状況、活動地域、時代の変化などを分析する。また、それらと小蘋の作品の、主題、画題、画面形式、造形的な様式などとの相関関係を検証することにより、明治・大正期の社会のなかで、小蘋画のような南画(文人画)が担った役割と位置付け及び小蘋の作品の意義を考察し、幕末から明治・大正時代を生きた一人の女性画家と社会との関係を解明しようとするものである。 以上の目的を達成するため、本年度は、以下の作業、調査、研究を実施した。 1小蘋の作品と伝記に関する網羅的なデータベースを作成する。 21のデータを反映した小蘋の詳細な年表を作成する。 31、2のデータを生かして、小蘋の作品成立の編年の可能性を考察する。 41において判明した小蘋画の注文主、交流のあった人物、活動した地域についての情報を収集し、小蘋の絵画制作や活動との影響関係を考察する。 53、4を踏まえ、小蘋の絵画学習の実態と小蘋の画風の展開について考察する。 1~3については、随時、作業、検証を進めている。4については、『木戸孝允日記』の検証により、小蘋が、早い時期から、政治家、詩人、書家、画家、古美術商などの当時の知識人たちと交流していたことを、具体的に明らかにすることができた。5については、小蘋の御子孫の野口家(甲府市)の所蔵作品などの調査で実見した小蘋の初期作品の検証により、不明な点が多かった小蘋の初期の画業の様相を、具体的に確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまでほとんど知られていない小蘋10~20代の制作と考えられる初期作品の調査をする機会を得た。また、『木戸孝允日記』に、それら初期作品の制作年代に近い時期の小蘋の活動に関する記事が載ることを知り資料を検証した。その結果、これまで不明であった小蘋の初期の画業の様相の一端を具体的に確認し、明らかにすることができた。それは、「絵画制作や交友関係を含めた活動の実態を具体的に提示して、小蘋が生きた時代の社会的文化的状況と造形とのかかわりについて考察する」という本研究の目的に即した成果であると考える。 来年度以降、この成果をさらに発展させ、小蘋の絵画制作の具体的な状況とその史的位置付けについて考察する。
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今後の研究の推進方策 |
小蘋作品は、山梨、滋賀、京都、大阪など、広い範囲に現存しており、未だ全ての作品のデータを網羅できていない。また、調査の過程で、所蔵家や古美術商等を通じ、これまで知られていない小蘋作品の情報も次々に入るため、調査がなかなか追いつかない。今後も可能な限り、調査を進めるつもりであるが、現地で作品の資料を収集し、作品を調査するのに時間を取られ、データをまとめる作業が追いつかないのが現状である。 その対応策として、今後は、研究補助員として大学院生にデータ整理の作業を依頼するなどして、データベースの完成を目指す。
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