広告ポスター専門の美術館を創設する計画は、フランスではすでに第三共和政下の1898年に美術批評家と美術行政官によって提案されていたが、第二次世界大戦後になって漸く文化政策の正式な課題として検討された。その結果、1978年にポスター美術館がパリに誕生し、1982年には広告美術館と改称された。本研究では言説資料を考察材料として、自国の広告表現の"高い芸術性"を誇る19世紀末以来の価値観、すなわちフランスにおける「広告芸術論」が、美術館の開設を通して公認されるまでの理念上、制度上の展開を検証することが目的である。 研究初年度の本年度は、本研究の起点である第三共和政期まで遡り、当時の広告ポスターの芸術的・社会的評価について検証した。2010年8~9月と2011年3月に海外調査を実施すると共に、2010年10月には研究対象である広告美術館を傘下に収める装飾芸術連合で開催されたシンポジウムにおいて、「フランスにおけるポスターの制度的評価」「日本の美術館におけるポスター収集と研究」というテーマの下、研究報告を行なった。またこの機会に、研究協力者のセゴレーヌ・ルメン(西パリ大学ナンテール/ラ・デファンス校)、レジャンヌ・バルジエル(広告美術館)、さらにアンヌ=マリー・ソヴァージュ(フランス国立図書館)、ロッセラ・フロワッサール(エクス=マルセイユ第一大学)と意見交換を重ね、本研究課題の有効性を再確認した。
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