研究課題/領域番号 |
22520114
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
浦上 雅司 福岡大学, 人文学部, 教授 (60185080)
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キーワード | ローマ / バロック絵画 / ドメニキーノ / 聖女チェチリア / 民衆表現 / オラトリオ会 / 7大教会巡り |
研究概要 |
本科研研究の一貫した目的は、画家ドメニキーノの作品を取り上げ、「庶民の期待」と「民衆表現」の観点から、17世紀初頭のローマにおける彼の絵画の特質を明らかにすることである。 この目的に即して昨年度は、1)16世紀から17世紀にかけてのローマで暮らす庶民(手工業者や商人など)が宗教美術と具体的にどのように関わっていたのかを明らかにする、2)ドメニキーノの民衆表現の特質を師アンニーバレ・カラッチ、同世代の有力画家カラヴァッジォとグイド・レニらのそれと比較検討して明らかにする、の二点を具体的テーマとして調査研究を行った。 第一項に関して、ローマに多数存在した世俗同信会(Confraternita laica)が、社会階層を縦断して会員を集めており、民衆の宗教活動、宗教美術との関わりを具体的に考察する上でその調査が有効と判断された。特に、同時期にローマで活躍した聖フィリッポ・ネリが創立に関与した聖三位一体同信会(Confraternita della SS Trinita)および同聖人が企画し、多くの庶民も参加して定期開催された教会巡礼についてはさまざまな資料が残っており、その調査によってローマの庶民と宗教文化の関わりについて具体的な知見を多く獲得した。 第二項に関しては、ドレスデン絵画館に保存される師アンニーバレの作品だけでなく、ローマ近郊グロッタフェッラータにあるドメニキーノの先行作品を実地調査した。さらに長年、修復中だったローマのサンタ・チェチリア聖堂に残る、聖女の浴室(聖女殉教の場とされる)に設けられた礼拝堂を調査し、ドメニキーノがサン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂に描いた聖女伝との関連について知見を深めることができた。これによってドメニキーノが聖女殉教場面を描くに際してどのような工夫をしたのか、観衆(ローマの住民であり、聖女チェチリアは身近な存在だった)との関わりから解明する手がかりが獲得された。さらに、カラヴァッジォやレニの庶民表現についても先行研究から多くの手がかりを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ローマの諸図書館における文献調査は3月に行った。また、当該研究に関連する遺跡や絵画作品の調査も順調に進んだ。3月のローマ訪問は主に文献調査が目的だったが、カラヴァッジォとその周辺の画家たちの宗教作品を一堂に集めた展覧会で調査することができた。これによって、当該時期のローマにおける宗教美術の広がりについて貴重な知見を得ることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
1599年、遺体が発見され一大センセーションを引き起こした聖女チェチリアは、画家ドメニキーノが活動した時期のローマ住民たちに極めて身近な存在であり、画家はそれを承知したうえで聖女伝壁画を描いた。庶民がこの聖女に求めるイメージを尊重することは作業が成功する必要不可欠な前提条件だった。フィリッポ・ネリに代表されるローマでの庶民向けの宗教活動によって庶民はそれまで以上の知識を持って聖堂の宗教画を眺めたのだ。 こうしたことを念頭に置きつつ、本年度は、サン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂にドメニキーノが描いた聖女チェチリア伝をとりあげ、多角的に分析して、当時のローマにおける宗教絵画の特質について解明する。
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