平成22年度に引き続き、中国、日本にある5世紀を中心とした金銅仏の精査を実施した。とくに日本では京都大学人文科学研究所が所蔵するいままで未発表であった中国金銅仏を精査し、その結果、従来類例の少なかった大型の光背と多数の脇侍を備える五胡期金銅坐仏の遺例(断片)を抽出することができた。 また、台座4面に小さな丸い記号を刻す五胡期金銅仏を発見し、類型化が著しいといわれるこの時期の金銅仏でも、細部では多彩な変化が見られることが推測された。 また中国では、南京において近年出土した南朝の5~6世紀の金銅仏数点を実見した。南朝金銅仏は5世紀中国金銅仏を考える場合に常に問題となるが、遺例が少なくその特色については未だによく分かっていない。今回新出資料となる重要な作品を見ることができたが、その結果、従来いわれているほどに、南朝と北朝の金銅仏には違いはない、むしろ共通点の方が多いのではないかと推測できた。 さらに日本に遺る5世紀から8世紀までの中国金銅仏約30件を蛍光X線分析で成分分析を実施した。その結果、五胡十六国から北魏時代にあたる5世紀から6世紀頃の金銅仏は銅が80~90%、錫、鉛が数%という値であるのに対し、随唐時代7世紀以降になると、銅が70~80%、錫と鉛が各々10数%という値を持つものが増えてくることが判明した。これにより、5世紀金銅仏が以降の金銅仏、また他の金工品とは異なる成分比であることがわかり、その独自性が次第に明らかになってきた。また鍍金を施している金銅仏では水銀が全く検出されない遺例が見つかり、水銀以外で金を塗る技法があったことが予想されるに至った。
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