本年度は5年計画の初年度であるため、『楽家録』の資料調査およびすでにわかっている所蔵先への複写を優先的に行った。 所蔵確認済みの図書館等のうち、国立または公立を優先して照会したところ、ほぼすべての所蔵先でマイクロ化されておらず、複写にはマイクロ撮影が必要であることが判明した。予算が限られているため、今後の書誌研究の底本として使用することを目的として、今年度は国立国会図書館所蔵の2種類の写本を調査し、それぞれが別種の写本であることを確認した上で、マイクロ撮影および複写を実施した。さらに秋田県立図書館所蔵の写本の写真撮影を行い、3点の全巻本を入手した。その上で、それら3点をデジタルデータ化し、照合した結果、3点はすべて異なる写本であることが確認できた。また、京都府立総合資料館所蔵の写本とも照合した結果、先の3点とも別種であることが確認できた。つまり、4点の写本はすべて別系統であることが判明した。しかし、4点とも写本の成立に関する書き入れは見られなかった。今後さらに他の写本について、この4点と比較分析し、写本の存在形態を明らかにしていく予定である。 また、礼楽思想研究として、『楽家録』と同年代の儒者である熊沢蕃山の楽思想を考察し、熊沢蕃山によって、楽思想と雅楽が結合したことを解明し、その内容の把握とともにその思想的意義と後世への影響について探求した。今後は、熊沢蕃山と『楽家録』の著者である阿倍季尚との関係性について探求する予定である。
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