研究課題/領域番号 |
22520123
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
武内 恵美子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (30400518)
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キーワード | 音楽学 / 日本文化論 / 文化史 / 思想史 / 雅楽 / 礼楽思想 |
研究概要 |
本研究は江戸時代に成立した雅楽の理論書(楽書)のうち、質量ともに優れ、後生に多大な影響を与えたと評価され、かつ現在でも雅楽研究の基本的文献として活用されている阿倍季尚著『楽家録』(元禄3年成立)を(1)総合的に研究することを目的としている。 当該年度は、前年度に複写した国会図書館蔵書本については、デジタルデータ化によって、ファイリングを進め、当該年度への資料調査に役立てた。また今年度は内閣文庫所蔵本および宮内庁書陵部所蔵本の調査を主に進めることにより、宮中や政府に近い場所で所蔵されていた『楽家録』の状態および書写状況を研究した。その結果、宮内庁書陵部の蔵書本2種のうち、文化6年正月6日の年紀があるものについては、「大正7年6月に式部職に引き継ぎ」印があり、文化6年に阿倍季良によって献呈されてから宮中で保管されていたことを推定させるものであることがわかった。したがって文化6年年紀本が写本の元になっていることは考えにくいこともまた推測できる結果となった。 儒学との関係に関しては、前年度に熊沢蕃山との関係を研究したことに続き、18世紀にはどのような状況になるのかについて、楽思想との関係を中心に研究を進めた。その結果、荻生徂徠と『楽家録』の関係は、熊沢蕃山ほど直接的には見られず、むしろ荻生徂徠の楽思想は琴学と楽律論に向かっていること、『楽家録』の内容とは多少は重なる部分があるものの、むしろ中国の楽書との関係の方が強いことが判明した。この解明は、『楽家録』写本の残存の推定に大きく影響するものであるが、所蔵先をみるとまだ興味深い点が存在するため、18世紀の楽思想と『楽家録』がどのようにリンクするのかを引き続き研究する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『楽家録』の複写は、マイクロ撮影から行わなければならないものがほとんどであり、交付申請当時に検討した複写入手は難しいことが判明しつつある。しかし、現在までの複写本によってこれから先の同定作業は昨年度よりは行いやすくなると考える。また儒学との関係についても研究を進めており、おおむね予定通りに進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
複写には予想以上に費用がかかることが判明したため、今後は特徴的な資料について複写を進める予定である。そのため、なるべくデジタル化した資料と現地で比較する形で同定作業を進めたい。 また楽思想との関係については、儒学のみならず、国学方面の検討を進める予定である。
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