研究課題/領域番号 |
22520123
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
武内 恵美子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (30400518)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 雅楽 / 礼楽思想 / 楽家録 / 藩校 |
研究概要 |
本研究は江戸時代に成立した雅楽の理論書(楽書)のうち、質量ともに優れ、後世に多大な影響を与えたと評価され、かつ、現在でも雅楽研究の基礎的文献として活用されている阿倍季尚著『楽家録』(元禄3年、1690成立)を① 書誌の状況、② 写本の状況、③楽思想との関係性、を総合的に研究することを目的としている。 当該年度は、すでに複写した国会図書館蔵本のマイクロフィルムのデジタルデータ化を行い、さらにもりおか歴史文化館所蔵の『楽家録』の撮影を行い、書誌研究の基礎資料を収集した。もりおか歴史文化感所蔵本には「養(恬?)座右之書」(*二文字目、「止部に舌」とも読める)の蔵書印が全ての巻に押されていた。これは南部家の蔵書印の1つであることが判明した。つまり、盛岡歴史文化館所蔵本は南部家蔵書本であったことが確認できた。大名家所蔵本の一例を入手できたことは、前年度までの資料との比較という点で非常に重要である。これらの資料を比較することによって、次年度以降写本状況を解明していく予定である。 儒学との関係に関しては、一昨年度は熊澤蕃山、昨年度は荻生徂徠の楽思想に関する研究を行ってきたが、いずれも『楽家録』との直接的な関係性は見出せなかった。そこで、当該年度は雅楽を実際に教授していた藩校を調査し、『楽家録』の所蔵の関係性から、雅楽の実習と『楽家録』の関係性を検討した。その結果、実際に雅楽実習を行っている藩校は非常に少数であることが分かり、さらにそれらの藩校と『楽家録』の所蔵について調査したところ、ほぼ一致しないことが判明した。一方、雅楽実習を行っていない藩では、何らかの形で『楽家録』が所蔵されている場合があることもわかった。ここから、雅楽実習と『楽家録』との関連性はあまり高くないことが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『楽家録』の複写は、マイクロ撮影が主であり、交付申請当時に検討した複写入手は難しいことが判明しつつある。また、まだマイクロ撮影がなされておらず、撮影から行わなければならない場合も多く、金銭的・時間的にも厳しい状況は変わりない。しかし、これまで複写した各本を基本として、それと比較することによって、今後の複写物の目安が立てやすくなると考えている。 儒学との関連性については、個々の儒者における楽思想の展開も検討しつつ、習慣としての雅楽実習と楽思想の関連性、さらに『楽家録』との関連性を検討しつつある。まだ検討すべき事項は多々あるが、着実に新事実を解明していると考えている。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
費用的な面で、全ての蔵書本を複写することは不可能なため、今後はデジタル化したデータとの照合によって書誌状況の研究を行い、さらに複写する必要性について検討し、必要なものについて複写をすすめる予定である。 また、藩校や藩所持、または大名家所持の蔵書本について検討すること、藩校の蔵書目録を調査し、その中に含まれる雅楽関係の資料を洗い出し、楽思想と雅楽との関連性、ならびに『楽家録』の所蔵の有無とその藩校での雅楽学習の態度、楽思想への意識等を研究する予定である。さらには、藩校の元となっている昌平坂学問所における楽思想のあり方と雅楽実習について、また釈奠と雅楽との関連性についても研究する予定である。
|