本研究は元禄3 (1690) 年成立の『楽家録』の書誌について、現存する写本からその傾向を解明すること、楽思想と雅楽演奏との関係性について探求することを目指した。 『楽家録』の写本を複写・撮影後デジタルデータ化し比較検討した結果、調査した全ての写本中筆跡が一致するものは皆無であった。このことから『楽家録』の写本は業者・商売上の作成である可能性が低く、かつ奥書がほぼ皆無であることから、興味関心を満たすための私的な写本である可能性も低いことがわかった。また、雅楽実践を伴う楽思想の場における『楽家録』の所有は希有であり、楽思想の実践的テキストとして用いられた可能性もまた低いことが判明した。
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