研究課題/領域番号 |
22520128
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
神月 朋子 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (70375591)
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キーワード | 平尾喜四男 / 近代日本音楽 / 近代フランス音楽 / スコラ・カントルム / 伝統の創造 |
研究概要 |
今年度は作曲家の平尾貴四男を取り上げ、その言説を中心に詳細な分析と考察を行なった。本研究の特色と独創的な点は、従来の断片的な研究とは異なり、平尾に関するほぼすべての資料を収集し、その詳細を分析し、異文化体験の根源について考察を行ったことにある。特に彼がフランスで何をどのように学び、対峙したのかを明らかにしようとした。 まず、留学前の日本の音楽界で形成されたフランス音楽観を確認した。ドイツと違って同時代の音楽が日本に紹介され、軽さや華やかさ、はかなさ、簡潔さ、明快さ、自然とのつながりが着目され、新しい音楽のイメージをもたらした。感覚と意識は表裏一体であり、ともに静態的ではなく動態的なのである。そして、国家とではなく、各個人の音楽観と親密で個人的な関係を作り出していった。これは、日本が得た新しい音楽像である。 これを背景とした、平尾の異文化体験について、以下に焦点を絞って考察した。彼は30年代にパリに留学し、世界の音楽を鳥瞰しつつ、自己の自然な民族性から生まれる、論理性と抒情性をもった音楽を創作しようとした。その方向性を明らかにし、戦前から戦後にかけての日本の作曲界への影響を考察した。 まず音楽院で得たのは、極めて厳格で緻密なメソッドによる作曲教育と、同時に響きや表現の美しさも重視する姿勢であった。また、対位法を通じて、調性とは異なる自由な表現方法を得た。次に、当時のパリの音楽状況から得たのは、1920年代の残滓の感じられる世界音楽の息吹であった。これは、現代の音楽状況の先駆けでもある。それは芸術だけでなく、民族の日常生活に根差した文化的基盤のある音楽であった。 今後の課題としては、こうした世界音楽を体感し、それをどのような方法で融合・対立させるか、とりわけ日本の伝統音楽とのかかわり方を平尾がどのように表現したのかを解明することが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の繰り越し分の、24年度における達成度は、当初の計画段階に達した。その根拠として、24年度末にまとめた紀要論文を挙げる。また、研究中断直前の23年度秋には、日本音楽学会全国大会で発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、24年度の中断部分を25年度8月から再開し、近代フランス音楽が19世紀後半から、今日に至るまでふたたび興隆した背景を探るとともに、その原動力あるいは本質を追及する。 一方、日本伝統音楽の、ヘテロフォニー等を中心とするさまざまな時間的・空間的特質も明らかにし、日本の伝統文化と通底する特徴を考察する。 以上を踏まえて、近代日本人作曲家が、昭和戦前期までにどのように両者を対立・融和させようとしたのか、その活動と成果の一端を示したい。
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