研究概要 |
1.民国期の広東系音楽のアマチュア活動関連調査:香港中文大学中国音楽資料館で粤楽、粤曲関連資料を収集。上海と広東を二大拠点として両ジャンルが発展する状況が把握できた。国内では、「申報」に加えて文匯報(上海、文匯報社, [1987.3―1947])の娯楽遊芸関連記事を調査した。「文匯報」の掲載記事では、孤島期の政治不安とはうらはらに、畸形の経済発展をバックとして娯楽が全盛期を迎えた状況がつぶさに確認できた。 2. 日中ハーモニカ関連資料収集 ①日本の刊行譜収集:民国期上海ハーモニカ界の比較材料として、昨年度に続き大正から昭和初期に刊行された楽譜類を購入。また大阪ハーモニカ界の編曲指導者だった松尾金五郎氏の子息から私家版資料の提供を受け、東京大阪を比較しつつ往時のハーモニカ曲の傾向やレコード会社、楽譜会社の販売傾向との関連が具体的に把握できた。 ②中国ハーモニカ関連情報収集:『情深至吻-上海中華口琴会及其推広的音楽』の著者、李岩氏に、アマチュア組織の刊行譜について情報提供を仰いだ。李氏によれば、同好組織は閉鎖的で組織外に楽譜が流れることを拒んだ。更に、現代中国の公的図書館は民国期の私的刊行物は収集対象とせず、資料調査に困難をもたらしている。 ③日中曲目の比較検討:これまでに入手した日中ハーモニカ譜の曲目を、両地の音楽や社会状況との関連の観点から比較検討した。日本は、邦楽や流行歌を含む広範な曲目を網羅したが、中国(上海)は日本の教材を直輸入し、日本の伝統曲や俗曲を除いたに過ぎない。こうした傾向と、初期のハーモニカ普及者が日本の植民地教育を受けた台湾出身者であったことは恐らく関連があると考えられる。 3.口頭発表:上記1,2の調査結果をふまえ、第10回日中音楽比較国際学術検討会(2013年3月26-30日、東京芸術大学音楽学部)で発表を行った。
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