平成22年度の研究のスタートは、ベートーヴェンの楽器に関するメモ書きを研究したBeethovens Studien zur Instrumentation/G.Schuenemann(Berlin)、を日本語訳から。 そこに書かれているホルンとトロンボーンに関する記述を吟味する。音域や使用法に関して、従来の説とはかなり異なる記述が多く、早急に楽器を使用した検証が必要と判断。 ベートーヴェン時代のホルンとトロンボーンのレプリカを使用し、メモ書きに記されていた譜面の演奏を試みる。やはり、従来の説とは異なる楽器や使用法の方が、メモ書きの譜面はもちろんのこと、ベートーヴェンの管弦楽作品に適していることを確信した。とりわけ、バストロンボーンに関しては、欧米や我が国の古楽器オーケストラで使用している楽器が間違いであるという衝撃的な事実も発覚し、今後の発表によって、古楽の世界での状況も変化する可能性が増してきた。 この実験のあと、バロック・古典派時代のナチュラルトランペットのレプリカを使用し、2本のナチュラルトランペットで和音を奏したときに、各々の音の周波数の差の音が聴こえる「差音」を検証。想像以上に大きく聴こえるようで、15メートル以上離れた場所で聴いてもはっきりと確認できた。ベートーヴェンが2本のトランペットしか使用していないにも関わらず、3本目の音が聴こえる工夫をすることで、バッハの時代から続くトランペット3本の響き(三位一体を表す)を再現した可能性も濃厚になってきた。 また、これと同時に、ナチュラルホルンと同じように、ベルに右手を差し入れて音程を調整するインヴェンショントランペットの可能性も実験。これも、想像どおりの効果が得られ、ホルンと同じ旋律を吹くことが多いベートーヴェン時代のトランペットが、この方法で音を調整していた可能性も否定できない。 以上が平成22年度の研究成果である。
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