平成22年度の研究では、ベートーヴェンの楽曲で使用されている金管楽器について、彼の楽器に関する記述を取り上げた資料を基に、当時のホルン、トロンボーン、トランペットを再現し、実際にどのような演奏方法になるかを検証した。その結果、いずれの楽器も、現在まで古楽器オーケストラなどでおこなわれていた方法とは異なる部分があることが判明した。平成23年度の研究では、前年度の研究成果を踏まえて、3種の楽器を組み合わせることで、ベートーヴェンやその周辺の作曲家たちの作品の金管楽器セクションを再現し、その結果を検証した。もっとも大きな成果と新たな課題をもたらせたのは、ベートーヴェンの管弦楽作品に於けるホルンとトランペットの共存の仕方であった。ホルンがハンドストッピングで自然倍音の癖を修正した場合、指孔を持たない歴史的なトランペットと音程が合わないのである。解決方法としては、トランペットの側もインヴェンショントランペットを使用してハンドストッピングで修正する方法が考えられた。この可能性は、木管楽器とのバランスや兼ね合いも考えてさらに深く検討していきたい。もう1つ考えられる方法は、ホルンがトランペットと共に強奏している際はハンドストッピングで修正しないというもの。こちらの可能性も、差音の発生、トロンボーンとの兼ね合い、木管楽器とのバランスを考えて、さらに追求していきたい。他にも、ベートーヴェンの交響曲第9番やウェーバーの歌劇《魔弾の射手》序曲で、調の異なるホルンが併用されているケースで、ハンドストッピングがどのように重なり合うのかも検証を重ねた。この点に関しても、興味深い結果が得られたので、引き続きオーケストラの中での効果を検証していきたいと考えている。
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