本研究では、英米の環境芸術について美学的に分析し記述し、とくにそれらが扱う風景の物語性と自然環境の歴史性を明らかにすることで、環境芸術の論理的基盤となる、現代の自然環境を捉えるための新しい環境美学を構築することを目的とする。従来の哲学の文脈で捉えられてきた「循環し永遠の生命を持つ自然」ではなく、自然環境の急速な悪化に伴い「死すべき存在」として捉えられなければならない自然の現在を、環境芸術を手がかりに美学的に考察する。 平成23年度は、自然環境との関わりを最重要課題としている英国各地にある最新の環境芸術作品の実地野外調査を行った。調査にあたって、環境芸術研究の現状を最新の文献資料によって把握し、国内での予備調査の後に野外調査を実行した。環境芸術作品の調査を行った場所は、トネリコ・ドーム、ウッドゥン・ボールダー(北ウエールズ、グイネズ州)、ヨークシャー・スカルプチャー・パーク(イングランド、ヨークシャー州)、シープフォールズ・プロジェクト(スコットランド、ダンフリーズシャー州、イングランド、カンブリア州、同、ヨークシャー州、全46点)ならびにクレラー・ミュラー美術館(オランダ、オッテルロー)、ハンブルク美術館(ドイツ、ハンブルク)であり、平成23年8月10日~9月2日にかけて実施した作品の映像資料はデジタル・カメラにより記録収集し、これら英国の環境芸術作品の野外実地調査によって収集された資料をもとに、自然環境との関わりに重点を置いた環境芸術の個別の実証研究を行った。この成果は平成24年3月16日に「自然の歴史化-環境芸術におけるnarrativeなもの-」という題で、東洋大学国際哲学研究センターで講演した。
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