本研究では、英国の環境芸術について美学的に分析し記述し、とくにそれらが扱う風景の物語性と自然環境の歴史性を明らかにすることで、環境芸術の倫理的基盤となる、現代の自然環境を捉えるための新しい環境美学を構築することを目的とする。そのため従来の哲学の文脈で捉えられてきた、調和と秩序の中で循環する存在ではなく、死すべき運命の中に歴史を持つ人間と同じように、不可逆的な時間のうちに歴史を有する存在としての自然の現在を、環境芸術を手がかりにした美学的な考察を行った。 最終年度に当たる本年度は、昨年度に引き続き、自然環境との関わりを最重要課題としている英国の最新の環境芸術作品の野外実地調査を行った。調査に当たって環境芸術研究の現状を最新の文献資料によって把握したのちに野外実地調査を実行した。調査の実施場所は、ロンドン南西部にある英国王立植物園であるが、これは、研究対象である英国の環境芸術家、ディヴィッド・ナッシュが、植物園の敷地全体を使った大規模な環境芸術作品のインスタレーションを行ったためで、会期途中の展示替えを含めてすべての作品が調査できるように、夏期に集中して10日間の調査を行った。デジタル・カメラによってこれらの環境芸術作品を記録し、資料収集を行った。この野外実地調査によって得られた資料をもとに、環境芸術の個別の実証研究を行い、これを理論的に支える環境美学研究によって得られた成果を、「自然の歴史化と環境芸術の物語性―デイヴィッド・ナッシュの《トネリコのドーム》と《木製の丸石》をめぐる考察―」という題で美学会で発表した。ほかにも、「自然の歴史化―英国の環境芸術におけるnarrativeなもの―」(『国際哲学研究』第二号pp.113-125)および、「自然の歴史化と環境芸術の物語性(2)」(『GEIBUN007 富山大学芸術文化学部紀要』pp.94-105)も本研究による成果である。
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