平成22年度は、ユーフォニアムの基本的な特殊奏法をおしなべて調査することを目的に、主に重音奏法、スライドパイプを抜いた奏法、そして過去に一度研究成果として発表してある4分の1音についての補足的なデータ取得などを中心として調査した。 このうち、これまでほとんど研究対象とされてこなかった重音奏法については、その特質と問題点を明らかにするために多角的にデータを取得し、分析し論文として発表した。その結果、ユーフォニアムの、特に声とともに作り出す重音奏法については、必ずしもすべての重音が同じように作り出せるわけではなく、倍音列上のあるポイントにおいて、声と楽器音で特定の音程を作り出そうとするときにエラーが発生しやすいことが浮き彫りとなった。このことによって、従来特に意識されてこなかった重音奏法に関する問題のうち、特に男性を想定して書かれた重音を女性奏者が声の音域上の問題からシミュレートする際に、うまく重音を発生させることが出来ない可能性があることが明らかになった。同時に、倍音列の組み合わせ方を変えることによって容易にその問題を回避出来る可能性があることも示すことが出来た。このことは、重音奏法が奏者の性別によって実現不可能な場合がある事をあらためて指摘するとともに、そのエラー発生率が一様ではないことと同時にある程度の規則性もあることから、今後作曲家がユーフォニアム作品において重音奏法を用いる場合の注意喚起となり得る。 また研究目的のうち特殊奏法の教材化について、オリジナル教材を作る他に、既存作品に特殊奏法を応用する可能性を探るため、パガニーニのヴァイオリン作品をユーフォニアム用に編曲した。これを教材作成のためのプロトタイプと位置づけ、一部をコンサート形式で発表した。
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