本研究の最終年度にあたる今年度は、本研究の大きな特徴である「特殊奏法の教材化」を中心に進めた。従来の特殊奏法を取り扱った書籍では、対象読者を主に作曲家に限っていたため、奏法の解説に留まるのが常であった。しかし本研究では、さらに演奏家が奏法技術を習得することも射程に入れ、特殊奏法の教材を作成することを目指した。 研究では、まず教材化が必要と思われる5つの奏法(重音、微分音、ベンディング、スライドサウンド、ハーフヴァルヴ)を研究分担者(演奏家)の経験に基づき判定し、さらにそれらの奏法が実際に既存楽曲においてどのように用いられているのかを、使用目的や効果という視点で分析・分類した。次にその分析に基づいて、各奏法を習得するためにはどのような練習を行えばよいのかを、考察した。その結果、基礎練習と応用練習の二段階で教材を作成することが最も効率のよい方法であると考え、実際に教材案を作成した。この過程では、研究協力者(プロフェッショナルの演奏家)に意見を求め教材を精査することにより汎用性の高い教材の作成を目指し、最終的に全22種の教材を作成した。以上の結果は、研究代表者が所属する機関の紀要において発表した。 今年度の成果をもって、本研究は当初の目的、すなわちユーフォニアムにおける特殊奏法を、作曲家および演奏家の両方の視点から考察し、それらを実践に役立つ形にまとめ上げることをおおむね達成したと考えている。今後は本研究の成果を、より細部の精査を経て書籍(デジタル書籍を含む)などの形にまとめて公表することを考えたい。またその際には、本研究の成果を国内に留まらず海外にも問えるよう、翻訳することも念頭に置いている。
|