今年度は研究のまとめの年であり、数回の研究会を東京で行なった。 井上は政治経済学・経済史学会秋期学術大会の「音楽が国境を越えるとき」というパネル・ディスカッションに参加し、万博と音楽との関係について発表した。万博は民衆の合唱活動と深く関係していた。また、日本における合唱コンクール導入期について、紀要論文「小松耕輔と第1回合唱競演大音楽祭(1927)」にまとめた。論文では、小松耕輔が1927年に開催し、戦前日本の合唱運動を発展させる上で重要な節目となった第1回合唱競演大音楽祭について、上野学園大学所蔵の「小松文庫」および、日本合唱連盟図書館に所蔵されている資料等を使用しながら、当時の社会的コンテクストに置き直し、その意味を再考した。 松本は、長年の研究を『記念碑に刻まれたドイツ―戦争、革命、統一』(東大出版会)にまとめた。ドイツの男声合唱運動は、協会運動として、祭典、記念碑と深く関係して発展したのであって、19世紀初頭以来の200年のドイツの記念碑をまとめた本書は、男声合唱運動を研究する上で必要な基礎作業だった。とくにドイツにおける「国民」概念の重層性については、早稲田大学西洋史研究会での報告を活字にした。本書の冒頭に現在のドイツ国歌の元になった「ドイツ人の歌」について紹介したが、その後、「国歌、国民歌に歌われたドイツ」の研究をすすめている。
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