本研究は、中央集権的なスハルト政権崩壊後、2000年に始まった地方分権法の施行によって、バリ州民の意識が大きく変わった結果、2002年からバリ全土で沸き起こった文化復興運動(アジェグ・バリ運動)と、1950年代後半から約50年続いた、国民文化論のもとで実施されてきた国家主義的な文化政策の方針転換により、各地方で沸き起こっているアイデンティティの再認識の結果、急激に変容するバリ芸能に焦点を当てている。 平成22年度は、主に三つの点の研究を行った。一つ目は、スカルノ時代に社会主義リアリズム舞踊として創作され、その後に衰退した舞踊が、なぜ地方分権以降に復興したのかを研究した。その結果、共産主義(社会主義)を強く否定してきたスハルト政権の崩壊により、社会主義リアリズム舞踊として創作された作品が復興したわけでなく、その舞踊の持つ芸術性が大きく影響していたことを作品の分析や評価をもとに明らかにした。二つ目には、カランガスム県で地方分権以降に復興した大正琴を起源にもつ楽器アンサンブルに焦点を当て、当事者たちがどのような意識で復興を目指したのかを現地調査より明らかにした。さらに三つ目は、地方分権後に起きた宗教改革の中で変化を余儀なくされてきた儀礼が、現在では、県単位の儀礼として大掛かりに遂行されている事例を現地調査し、その儀礼の方法や企画者の意図などを明らかにした。なお、二、三点目の研究については現在も継続しており、平成23年度はより、この二点について詳細な研究を実施する予定である。
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