平成23年度は、主に下記の2点から、バッハ演奏におけるテンポの微細な変動について研究し、2編の査読付論文として発表した(研究発表の欄を参照)。 1.拍節内で行われるテンポの伸縮 2.アーティキュレーションの表現に伴って行われるテンポの微細な変動 1については、主にバッハの自筆譜や初版等のオリジナル資料、当時の音楽家による主要な演奏理論書、現代の先行研究を基に、テンポが拍節内で、拍節分割と関連しながら伸縮を行うことについて論考した。この点については、バッハの多くのオリジナル資料に、具体的な音価や、音符を記譜する位置によって示されており、バッハのこうした演奏習慣の実態が明らかになった。 2については、当時の幾つかの主要な演奏理論書に、スラーの開始音を長めに奏したり、それを強調するといった内容が記載されており、それに基づいてバッハの様々なアーティキュレーションの具体例に即して論考した。この点については、更に、現代の世界的な定評のあるバッハ演奏家の演奏も参考にした。 特に1については、バッハのオリジナル資料から、彼が意図したテンポの微細な変動の実態を明らかにしたもので、バッハの今後の音楽の基本的な認識に確実に影響を与えるものとなった。
|