本研究は、18世紀後半、ベルリンで複写された、16・17世紀に作曲された対位法が用いられた音楽作品を収めた写譜と、これらを書いた写譜師を研究対象とし、彼らの活動を明らかにすることで、ベルリンで活躍したエマニュエル・バッハなどの音楽家たちが抱いていた、過去の音楽に対する関心について具体的に把握し、さらには、ベルリンでの過去の音楽に対する探求がその後どのように音楽の歴史に影響し貢献していったのかということを明らかにすることを目的としている。 平成22年度度は、文献調査を中心に行い、すでに公開されている情報から、焦点を当てる6名の写譜師の活動を把握することに努めた。そして、18世紀半ばから18世紀末までの間に、ベルリンで写譜された楽譜の多くは、現在、ベルリン州立図書館に保存されていることから、ここで現地調査を行った。調査の内容は、関連する、18世紀後期に写譜された楽譜の内容の検証、写譜師の筆跡の鑑定、使われた紙の透かしの判別などであった。今年度は、特に9つの写譜に注目し、それらの成立年代、写譜師の特定、そしてそれら楽譜間の関係などについて検証を行った。また、これらを書いた6名の写譜師の手による、ベルリンに保存されている他の楽譜の存在についても調査を行った。その結果、写譜師たちは、16・17世紀に作曲された対位法が用いられた音楽作品だけでなく、18世紀前半、特に北ドイツで作曲された同様な音楽作品も数多く写譜していたことが判明した。
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