本研究は、18世紀後半、ベルリンで写された、16・17世紀に作曲された対位法が用いられた音楽作品を収めた写譜と、これらを記した写譜師を研究対象とし、彼らの活動を明らかにすることで、ベルリンで活躍したエマニュエル・バッハなどの音楽家たちが抱いていた、過去の音楽に対する関心について具体的に把握し、さらには、ベルリンでの過去の音楽に対する興味が、その後音楽の歴史に影響し貢献していったということを明らかにすることを目的としている。 平成24年度は、22年度よりの研究において焦点を当ててきた、18世紀後半にベルリンで活動してた6名の写譜師について、さらなる情報の収集に努めた。18世紀半ばから18世紀末までの間に、ベルリンで写譜された楽譜の多くは、現在ベルリン州立図書館に保存されている。このため、22年度、そして23年度に続きこの地で調査を行った。調査の内容は、18世紀後期に写譜された楽譜の内容の検証、写譜師の筆跡の鑑定、使われた紙の透かしの判別などであった。24年度は、23年度に続き特に、ゲオルク・フィリップ・テレマンによる、対位法が用いられた作品の写譜について検証を行った。これらの写譜の成立年代、写譜師の特定、そしてそれら楽譜間の関係などについて、23年度の調査では判明できなかった事柄について特に考察を行った。 調査の結果、フローベルガーやフレスコバルディによって、17世紀に書かれた音楽作品を複写した写譜師たちは、ゼバスティアン・バッハ以外の北ドイツの主要作曲家によって、18世紀前半に書かれた対位法を用いた音楽作品も写譜していたことがより明らかになった。テレマンは、エマニュエル・バッハと親密な関係があったことから、18世紀後期のベルリン写譜師によるテレマン作品の写譜の存在は、ベルリンの音楽文化活動の中における、エマニュエル・バッハの存在の重要性を明確に示していることが確認された。
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