本年度は、北京・上海・香港・韓国・(アメリカ)・ドイツ・シンガポール・インドネシアについて市場調査や出版社からの聞き取り調査を行った。 中国においては、2008年の広州国際動漫節を取材した経験と照らし合わせると、南部においては「マンガ」の重要性が認識されており、流通する雑誌の種類も多いのに対し、北に行くほどほぼ「アニメ」しか眼中になく、雑誌の種類が少ないことが観察された。また、流通形態に関しては、北京・上海では、かなり洗練された形態の「東方書報亭」と呼ばれるニューススタンドがマンガ雑誌販売の中心であるのに対し、香港ではほぼ露店に近い形態で、ここで独自の発展を遂げた「香港マンガ」が売られている。最近ではコンビニにも多くの雑誌やマンガ単行本が置かれるようになってきているのも特徴的である。 また、調査を行ったアジアのほぼ全域で、貸本マンガ、そして「学習マンガ」の大きな市場があるのが明らかになった。とりわけ韓国では「学習マンガ」が盛んであり、シンガポール・インドネシアなどにも翻訳されて輸出されている。しかし香港では台湾産の学習マンガが多く売られており、これは露店でしか売られない独自の「香港マンガ」とは違って、一般の書店で大きなスペースを占めて売られている。また、シンガポールでは、台湾から輸入された中国語版(繁体語)の日本マンガが多く見られる一方で、独自の、簡体字の中国語版も出版されている。英語版も、輸入版とは別に独自の英語版も出版している。 ドイツでは、他国に比べて、少女マンガとBL(ボーイズラブ)の女性向け市場が大きいことが改めて確認された。また、数年前の日本マンガブームに替わって、グラフィックノベル(GN)の市場が大きくなっていることが明らかになった。ドイツでは「マンガは子どものもの」という観念が根強く、GNならば書店に置きやすく、また定価が高いので利幅が大きい、というのもシフトの理由のようだ。
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