研究課題
本研究は、音楽学を軸とした「芸術と科学を結ぶ学際的研究分野」を創始・開拓することを目的としている。その端緒として「ソプラノの歌声と演奏の特徴」というテーマが選ばれ、音楽学とその応用分野である音楽療法の研究者がコーディネータの役割を担い、「歌う声の研究」を音声学研究者、声楽家・声楽指導者の協力の下に実施してきた。音声学分野では、22度のMRI撮像データ解析結果に認められた興味深い現象をさらに追求すべく、新たに1名の被験者を加えた実験が行われ、より精度の高いデータをもとに、分析が進められている。また、22年度に採取したソプラノ歌唱音声については聴覚印象評価が行われ、歌唱の専門訓練が聴覚印象に与える影響が明らかになりつつある。本研究終了後も、データ解析を積み重ねる研究を継続することにより、「ソプラノの歌声と演奏の特徴」を解明する大きな要素、「歌手のフォルマント」に関する従来の定説に大きな修正を加えることになるだろう。音響分析担当の河原英紀教授が、本研究のために開発した新たな分析ソフトは、24年度に発表される研究のために用いられる予定である。音楽療法分野と声楽分野は、クラシック歌唱の主観的な側面に焦点をあて、実際の身体の動き(MRI撮像データ等から得られる)と、共鳴・共振による歌い手の感覚およびそれらの言語表現について調査した。この調査の中間レポートは、音声言語医学学会の場で紹介され、大きな反響を呼び、学際的な研究への、もう1つの方向性が示された。また、音楽療法分野では、声楽、音声学、音響学分野の協力による音楽療法士の為の発声訓練の試みも行われ、学際的な取り組みとして日本音声言語医学会で発表された。音楽学分野では、日本音楽学会全国大会の研究フォーラム「声の学際的研究」において、学際的な研究の可能性について論じた。予想をはるかに超える参加者が集まり、学際的研究への興味の高さが証明された。
1: 当初の計画以上に進展している
ソプラノの特性研究(演奏、音声学):初年度に得られたMRI撮像データから、新たな知見に到達しうる研究結果が得られたため、23年度の研究では、当初の案とは多少異なる内容で撮像を実施し、定めた目標への歩を進めることにした。すでに論文、研究発表等の形で公表された成果、および24年度の発表に向けて準備中の研究もある。(注:新たな知見とは、女声の「歌手のフォルマント」に関する理論である)音楽療法、音楽学:それぞれ、目指した、あるいはそれを上まわる成果、あるいは評価を得ている。音楽療法は、応用音楽学の一分野として、学際的研究がとりわけ生かされる分野であることが明らかとなった。
24年度:3年間のまとめを行うとともに、来年度以後の展開を視野に入れた研究も試みたい。MRI撮像データに関しては、より精密な撮像が好ましいため、今後の研究における撮像条件の改良を含め、の三分野の協力をさらに進めていく。音声データの解析については、連携研究者による本研究のための高度な分析ソフトの開発・改良により、今年度の研究は、従来にない有効なデータを得ることになると考える。25年度以後の展開にむけて:本研究を端緒とする新知見をさらに追求する。演奏、音声学、音楽学(応用音楽学を含む)による学際的研究を継続する。異なる思考法、視点の持ち方の相違など、相互に学ぶ点が多く、相互理解と協力が研究実績に直接結びつくことが証明された。この路線を継続して行きたい。
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Academy Proceedings in Engineering Sciences
巻: Vol.36,Part 5 ページ: 713-722
電子情報通信学会論文誌A
巻: Vol.J94-A, No.8 ページ: 557-567
日本音響学会講演論文集(秋)
ページ: 313-316