本研究は、グレゴリオ聖歌を典礼神学の視座からとらえなおし、この音楽の「祈りの芸術」としての側面を明らかにしようとする試みである。典礼史的研究、聖書解釈史的研究、典礼神学的研究の3領域を含み、3年計画で進められている。 2年目となる本年度は、降誕祭圏のミサ固有唱のテキスト(聖書)の解釈史的研究に着手するとともに中世の典礼注解書の精読の前提となる、816年のアーヘン教会会議の決議文書「参事会規定」、ならびにこの教会会議の影響を直接受けて執筆されたフラバヌス・マウルスの『聖職者の教育について』をとりあげ、これらの文書のなかで強調される、典礼奉仕者、わけても朗読者および詩編唱者の役割について考察を試みた。典礼における彼らの任務は典礼奉仕を通して聴衆を「悔俊」へと導くことにあるが、悔俊とはこの場合、聖書の言葉に照らされて罪の状態を悔いるに留まらず、永遠の生命への焦がれをも指す。カロリング期における典礼歌唱はこうした終末論的救済論に支えられていることが明らかになった。 文献研究に加えて、Stefan Klockner教授主宰の「エッセン・グレゴリオ聖歌国際セミナー」(2011年7月26日~29日)、ならびに、Godehard Joppich名誉教授主宰の「シュマレンバッハ・グレゴリオ聖歌セミナー」(2012年3月2日~4日)に参加し、グレゴリオ聖歌研究の最新の動向の把握にも努めた。 さらに、研究協力者である橋本周子氏(東京 聖グレゴリオの家 宗教音楽研究所長)とともに研究会を開催し(2011年09月01日、10月27日)、この分野において先駆的に研究を進めるJoppich氏の成果の精読に努めた。
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