研究代表者である森田は、すべての高齢者が自己表現を可能とする芸術活動の機会や場所を提供する可能性を研究し、記載の造形作品研究の他に、以下の活動をおこなった。 国内でおこなわれている高齢者の芸術活動の現状把握のため、高齢者福祉施設1200個所を対象にアンケート調査をおこなった。そのうちの73%の施設は、折り紙、手芸、書道、塗り絵、合唱等の形態の決まったものを介護スタッフが誘導し、集団でおこない、その他の施設では身体機能を維持することを優先しているという結果を得た。個人の要望する時間に、多様な芸術活動をおこないたいという施設側の要望もあるが、アイデアがない、誘導する専門の者がいない、時間的余裕がない、費用がないというような多くの課題をかかえているということも得た。 海外ではスェーデン、フィンランドの高齢者の芸術活動の視察をおこなった。日本と福祉環境に違いがあるにしろ、個人の要望に応じた時間に、多様な芸術活動がおこなえるような環境を日常生活の中に整え、特に、芸術を専門とする者が誘導している所では、芸術鑑賞に親しむことのできる工夫、活動内容においても、高齢者の自由な自己表現が多くみられた。 さらに、「はなさんち」において、造形活動実践を6回おこない、臨床心理士、医師、看護師の協力を得て、高齢者の精神面、身体面の両面から、造形活動との関係性について調査した。その結果、回想法や音楽と併用すると自由な自己表現をおこなう可能性が高まり、身体機能や体調、芸術に関する既有経験等の個別性を十分に把握した誘導をすれば、素材や用具との関わり方が深まることを考察した。また、参加していない高齢者にとっても他者の活動に関心を持ち、積極的に他者の作品に接したい、その場にいたいという要望が生まれること等、高齢者間のコミュニケーション、高齢者と誘導者とのコミュニケーションに関しての相互影響を考察した。
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