研究課題/領域番号 |
22520160
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研究機関 | 京都造形芸術大学 |
研究代表者 |
森田 実穂 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (00368060)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高齢者 / 造形活動 / コミュニケーション / 芸術と福祉 / 実践的研究 / 造形プログラム / アクティビティ / 創出 |
研究概要 |
すべての高齢者が自己表現を可能する芸術活動の機会や場所を提供する可能性を研究するために、本年度は高齢者の個別性と自己表現について、総合老人福祉施設「同和園」西野の家「はなさんち」、社会福祉法人京都市社会福祉協議会「京都市左京老人福祉センター」、左京区社会福祉協議会のそれぞれの場に応じた造形プログラムを創出、その実践をおこない以下の点について詳細に分析し検討した。 高齢者は身体的、精神的状態だけではなく多様な生活史、生活状況、人生観や人間関係等が自己表現と密接に結び付くことから、まず、これらに柔軟に対応可能な造形プログラムを創出、実践した。そして、この造形プログラムをおこなう高齢者の制作プロセスと自己表現との関連性、自己表現を可能とする造形活動への誘導者とその誘導法、高齢者福祉現場の芸術文化的アクティビティニーズと本研究の役割等について検討した。さらに、国内8か所の学校現場における美術科の授業を視察し、題材や指導法が高齢者対象の造形プログラムやその誘導法にどのように反映できるのかということについても検討した。 また絵画制作を専門とする高齢者を対象に、自己表現を可能とする精神的、身体的状態及びその活動前後の精神的、身体的な変化についての詳細な分析をおこない検討した。 以上の実践や分析については、医師や臨床心理士の専門的な協力を得ておこない、また、ソーシャルネットワーキングサービスを福祉現場とのコミュニケーションツールとして活用し、福祉現場の芸術文化的アクティビティニーズやそこに従事する者からの意見を本研究に反映させるとともに、本研究者からは造形プログラムやその誘導法の提案等をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究から導き出された結論を本年度の研究に反映させることできた。3か所の福祉施設や個人と連携し、高齢者の身体的、精神的な相違と自己表現の可能性について、それぞれ場に応じた造形プログラムを創出、実践できた。 以上のことを通じて、高齢者は身体的、精神的状態だけではなく多様な生活史、生活状況、人生観や人間関係等が自己表現と密接に結び付くことが分かった。また、ほとんどの高齢者は、造形活動を専門としないが、当時の学校での造形活動や自主的におこなった造形活動の既有経験が現在の造形活動や造形作品鑑賞の関心や意欲に有効に働くことも分かった。さらに1人の画家の自己表現を可能とする身体的、精神的状態やその活動前後の身体的、精神的な変化を継続して調査したことで、自己表現への満足度に関して、造形活動を専門にしない高齢者の自己表現との比較ができた。福祉現場においては、文化芸術系アクティビティをおこなう専門員の配置はなく、介護に従事する者がその時間を兼務する場合が多くみられ、造形活動プログラムやその誘導についての知識や技術、及び研修の機会もほぼない状況で行われている現状には、本研究の果たす役割が大きいことも分かった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を研究に反映させ、造形領域だけでなく他の芸術領域と融合させた芸術プログラムの創出を試みる。この芸術プログラム創出に関しては、高齢期の芸術活動と学校教育におけ芸術活動の関連性についてもさらなる調査をおこなう。そして、創出する芸術プログラムを誘導する方法や誘導者の養成、研修の機会を設定していくことや福祉現場や社会福祉行政機関に情報発信する。本研究成果を芸術系大学の教育課程においてどのように展開するかを検討し、また、福祉現場に関わるの者の教育機関である社会福祉系大学や専門養成学校においても提示していきたい。
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