研究課題/領域番号 |
22520168
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
秋山 佳奈子 (吉森 佳奈子) 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10302829)
|
キーワード | 『河海抄』 / 『源氏物語』 / 『万葉集』 / 中世の辞書 / 年代記類 / 『帝王編年記』 / 『本朝通鑑』 / 重宝記 |
研究概要 |
本年度は、まず、『源氏物語』注釈書である『河海抄』所引の「万葉」が、『万葉集』研究、『源氏物語』研究、さらに古辞書研究、いずれにも大きな意味をもつことを指摘した成果として論文「『河海抄』の「万葉」」を発表した。これまではもっぱら引歌の問題として研究されてきたことであるが、実際には『源氏物語』中の言葉に、「万葉」として漢字を掲出した場合、それが『万葉集』によることを確認するために歌があげられており、引歌とはいえないことを指摘した。具体的にはそれらは、『万葉集』次点本流布の状況を照射するものとなっており、同時に、『河海抄』のつくった広がり(『万葉集』にないものを「万葉」としてあげるような状況)は、中世の辞書の世界とも関わっている。 その成果をふまえ、従来、仮名遣い、音韻の問題等から考察されてきた古辞書類の成立について、『源氏物語』注釈史から見ることで可能となる新たな展望の提起として発表したのが、論文「字書の出典となる『河海抄』」である。古辞書類全体にわたって調査、『節用集』、『運歩色葉集』、『塵芥』等、主として室町時代の字書類に、『河海抄』を出典として表示する項目が見られることを指摘した。さらに、それらが、『万葉集』にないものを「万葉」としてあげる等、『河海抄』が『源氏物語』注釈をするなかでつくったひろがりをうけつぎ、近世に伝えるものであることについて考察した。 「『源氏物語』と平家のひとびと」は、上記の研究が、『河海抄』は何を基盤として年代記類の生成にかかわっていったかという本研究課題にとって必要不可欠な基礎作業であることを、中世の教養の基盤の問題に注目して総括的に指摘した研究である。それらが、『帝王編年記』以後の私撰国史断絶の時代を経て、近世の『本朝通鑑』等、さらに重宝記の類にどのようにかかわってゆくかという視点から考察をつづけてゆく計画である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究で、『河海抄』所引「万葉」ついて明らかにすることを試みる過程で、古辞書類に目をやることで近世期の歴史記述(重宝記のような、簡便なものも含む)とのつながりを具体的に確かめることができる見通しを得ることができ、さらに研究を進め深める方針をもった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、『一代要記』、『帝王編年記』を中心に、私撰国史生成の現場と『源氏物語』注釈書のかかわりを具体的に研究するとともに、これまでの本課題の研究によって得た、近世期の、重宝記の類のようなものも含む歴史記述とのつながりについて考察を深める。 一方、本課題の研究のなかで、『源氏物語』注釈書の『河海抄』の本文研究が、『源氏物語』研究、歴史学研究にとって不可欠の急務であることを認識しはじめており、それについても可能な限り調査、成果を公開することをめざす。
|