本年度は、当初の目的である『万葉集全解』全七巻の電子データ化を九割方完成させた。もっともこの電子データは、『万葉集全解』が商業出版物ではないため一般公開はできず、その完成部分を、以下に記述する万葉語誌研究会のメンバーにのみ配布した。昨年度から構築している万葉語誌研究会を主催し、本格的な『万葉集辞典』作成の前段階として『万葉語誌』を公刊する準備を進めた。東京大学国文学研究室において研究会を四度ほどおこない、基礎語彙として200語を選び、それらにランク付けを行った。協力者と合同で、執筆分担を定め、執筆方針の確認もおこなった。またそれとともに、万葉語誌をめぐる研究発表・討論を行った。なお、『万葉語誌』は、本科学研究費の成果として、来年度末に筑摩書房から刊行することが決定している。 本年度は、本科学研究費の成果を利用して、東方学会の第56回国際東方学者会議において、「注釈の方法意識-『万葉集』の注釈を通じて」と題する研究発表を行った。また昨年度研究発表を行った「古代の「音」と「言」」(「古代日本人の時間意識」)が、それぞれ『古事記年報』(古事記学会)『文学・語学』(全国大学国語国文学会)に学術論文として掲載された。また岩波書店刊の雑誌『文学』の特集「古事記をよむ」を編集し、座談会「古事記研究の新段階」の司会をつとめるほか学術論文「歌謡の表現の特性」を発表し、古代歌謡の表現性を重視した新たな読解を試みるべきことを提言した。また、本科学研究費を利用して、上代文学会大会(別府大学)、風土記研究会大会(宮崎看護大学)、日本歌謡学会秋季大会(関西外国語大学)に参加し、質疑・討論に加わり、有益な成果を得た。
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